無対価合併の適格要件
2021.10.05
しっておくべき制度と用語
無対価合併の適格要件
合併法人が被合併法人を吸収合併する際に、合併法人が被合併法人の株主に対して合併の対価を交付しない、いわゆる「無対価合併」というものがある。
100%グループ内で組織再編を行う場合、例えば兄弟会社が合併するような場合や親子会社で合併するような場合には対価を支払う意味が実質的にないことがあるため、無対価合併はグループ内合併においてよく使われる手法である。
税務上、合併する法人間に直接完全支配関係がある合併、ようするに典型的には親子会社間の合併については、適格合併となる場合がほとんどであるが、親子会社間でなくても同一の者による完全支配関係がある法人間の合併、ようするに典型的には兄弟会社間の合併についても、適格合併に該当する場合がほとんどである。
〈同一の者による完全支配関係がある場合の適格要件〉
(法人税法第2条第12号の8、法人税法施行令第4条の3第2項)
1. 合併前に当該合併に係る被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係(法人相互の完全支配関係)があり、かつ、合併後に当該同一の者と当該合併に係る合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれていること。
2. 当該合併における被合併法人の株主等に合併法人株式又は合併親法人株式のいずれか一方の株式又は出資以外の資産が交付されないこと。
同一の者には法人だけでなく、同族グループを含めた個人も含まれるので、未上場の企業グループの場合は、オーナー家を同一の者とする完全支配関係があるケースが多い。そのため、100%グループ会社間で合併を行う場合にはほとんど上記の適格合併の要件に該当するし、100%グループ内の合併は全て適格合併になると漠然と思っている方も多いように思う。
しかし、例えば以下のようなケースではグループ内の合併であっても、非適格合併となるので注意が必要である。
1. X社は不動産業を営んでおり、Aが45%、Aの妻であるBが55%の株式を所有している。
2. Y社はグループの中核企業でAが100%の株式を所有している。
3. X社は業績不振で債務超過に陥っているため、グループ内でのリストラクチャリングの一環としてY社に吸収合併することとした。
4. X社の債務超過であり株価がマイナスとなるため、合併の対価のない無対価合併とした。
一見、適格合併に該当しているように思える。しかし、無対価合併の場合には、上記の要件に加えて以下の要件を満たさなければ、適格合併とはならない。
〈完全支配関係がある場合の無対価合併の適格要件〉
無対価合併による場合には、上記1.及び2. の要件のほかに、合併前の同一の者による完全支配関係が次に掲げるいずれかの関係がある完全支配関係である場合に限り、適格合併に該当することとされている(法人税法施行令第4条の3第2項)。
1. 合併法人が被合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係
2. 被合併法人及び合併法人の株主等(その被合併法人及び合併法人を除く)の全てについて、その者が保有する被合併法人の株式等の被合併法人の発行済株式等の総数のうちに占める割合とその者が保有する合併法人の株式等の合併法人の発行済株式等の総数のうちに占める割合とが等しい場合におけるその被合併法人と合併法人の関係
ようするに、100%親子会社間や合併する2社の株主の持株比率が同じで合併の対価を交付する意味がそもそもないため株式の発行が省略されたケースであれば適格合併になるが、上記の事例のように債務超過で対価が0だから無対価にした、というのでは適格要件を満たさないのである。
非適格合併となってしまうと、思わぬ税金が発生したり、繰越欠損金の引継ぎができなかったりするため、十分な検討が必要である。
2021.10.05