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しっておくべき制度と用語

私的整理円滑化法案について

2023.01.13
企業再生

 

政府は2023年の通常国会で「私的整理円滑化法案」の提出を目指しているようだ。

 

 

各報道によると「新しい資本主義の実現」の一環として、経営不振に陥った企業が債務を圧縮する私的整理を全債権者の同意がない場合でも進められるようにして、早期の企業再建を促す狙いがあるそうだ。

 

果たして、この法案はどのようなもので、狙い通りの効果が見込めるのであろうか。

 

 

1)そもそも私的整理とは

 

私的整理とは会社更生法、民事再生法、破産法などの法的整理と異なり、裁判所手続きを経ないで債務者と債権者による協議で進められる整理手続きをいう。

法的整理は、時間がかかりすぎて企業再建の機を逸する、信用悪化によって事業価値を毀損する等、企業の再建をかえって妨げてしまうことがあり、私的整理はそのデメリットをある程度緩和することができる。

 

ただし私的整理は特別な法律に基づく訳ではなく、あくまで債権者と債務者との任意の協議によって債権債務関係を整理するため、反対する債権者に何かを強制する事はできない。

と言って、反対する債権者をそのままにして、他の債権者のみが債権カットなど何らかの不利益を被ってくれるかと言うと、それも非常に難しい。

個人の債権者であればともかく、金融機関などは株主や監督官庁に対して不利益を被る理由を説明できなければならず、債権者の平等が守られないような、俗な言葉で言えば、ごね得がまかり通るような整理案には賛成できないからである。

そのため、私的整理は反対する債権者が1人でもいれば頓挫してしまうのが一般的であった。

どのような法的建付けにするのかまだ全貌は見えないが、今回の新法案の背景には、このような現行の私的整理の問題点を解決したい狙いがあるのだろう。

 

 

2)新法案のポイント

 

では、この新法案の具体的な中身はどのようになるのであろうか。

新法案のパブリックコメントの募集にあたって、内閣官房新しい資本主義実現本部事務局が取り纏めた「新たな事業再構築のための法制度の方向性(案)」について、私が考えるポイントをまとめてみた。

 

 

1.目的

 

当該法制度の目的は、「経済的窮地に陥るおそれのある事業者の事業再構築を円滑化する。」とされている。

報道で重点が置かれている多数決での私的整理、つまり、全債権者が同意しなくても債務免除を受けられるようにする事、が表向きの主要目的というわけではない。

 

事業再構築の定義とは、新分野展開、業態転換、事業構造の変更その他の収益性の向上のための事業活動及びこれに必要な債務整理を行うことであるとされており、事業再構築の際に行う事業活動の具体的な内容として以下が想定されている。

 

 新製品の製造等による新たな市場・事業分野への進出(新分野展開)であって、新製品等による売上高が総売上高の相当程度を占めることが見込まれるもの。

 

 製品の製造方法等の変更(業態転換)であって、新たな製造方法等による売上高が総売上高の相当程度を占めることが見込まれるもの。

 

 新分野展開や業態転換を伴う出資の受入れ、事業又は資産の譲受け又は譲渡保有する施設・設備の相当程度の撤去・廃棄、他の会社の株式等の取得、子会社の株式等の譲渡、組織再編等

 

どこかで見たようなワードが並んでいるが、これは事業再構築補助金の要件に似ている。

おそらく、経産省の同じ人達が考えたのであろう。

事業再構築補助金も本当に実現できるのか?と疑問に思うような、あるいは要件に合致させるために無理矢理作ったような計画が数多くまかり通ったように思われるが、事業再構築補助金の場合はニューマネーが出るからまだ良い。

果たして、債務を免除してもらえば、ニューマネー無しに新分野展開だの業態転換だのできるものであろうか。できるなら、債務免除などなくてもとっくにやっていたと思う。

 

 

2.指定法人

 

本法制度の手続の開始を申し立てる事業者は、事業者が行おうとする事業再構築の方向性等を記載した再構築概要書、債権リストや対象債権の選定理由書等を主務大臣が指定する指定法人に提出する、とされている。

 

指定法人とは何ぞや、である。また例によって、役所の許認可権限の拡大と役所につながる新たな既得権益の創出が図られるのではあるまいか。

 

早速、日弁連は非弁行為を臭わせ弁護士の関与が必須であるとのパブリックコメントを出して牽制している。

 

 

3)新法案への感想

 

過去20年以上に渡って、民事再生手続き、私的整理ガイドライン、金融ADR、中小企業再生支援協議会スキーム、RCCスキーム、REVICスキーム、など、債務を整理して企業を再生する制度は整備されてきた。

 

今回の新法案は、おそらく、世の中のゾンビ企業批判、ダメな企業の延命措置批判を気にして単純な債務の免除ではなく、事業の再構築を要件としたのであろう。

しかし、どのような手続きを使って企業を再生するにしろ、本来本業でそれなりに利益が出ているか利益が出る見込みがある企業が債務の免除を受けるべきであって、本業がだめなので、新分野に進出します、とか、業態を転換します、とかいう企業が債務免除を受けて再生するべきとは思えない。

それなら、実際に新分野に進出してから債務を免除してくれと言うべきだし、厳しく言えば、一旦その企業を破産させてから、新たな事業を起こせばよい。

 

企業再生屋の現場感覚で言わせてもらうと、債務の整理による企業再生を進めるのであれば、民事再生法を改正して厳格な手続きを少し緩和するとか、期限切れ欠損金や評価損の損金算入要件を緩和するとかしてもらった方が新たな制度を導入するよりもありがたい。

更に言えば、批判が大きいとは思うが、租税債権をカットの対象に含めてもらえれば、あるいはせめて、長期での分割を認めてもらえれば、円滑に進む案件はさらに増えると思う。

 

また、日本経済の活性化のためには、既存の企業の再生だけでなく、新たな事業の創出が必要であり、そのためには、失敗した経営者が再挑戦できるような社会的な仕組みも重要だと思う。

経営者になろうという性質の人自体が世の中に少ないので、一回の失敗で再起不能にするのでなく、そのような性質を持った人には何度でもチャレンジさせるべきだし、再チャレンジできると思えば、起業のハードルも下がるはずである。

今では経営者や個人事業者が破産してしまうと、次に何か事業を起こそうと思っても融資を受けることはほとんど不可能に近い。

民間金融機関の判断は政府がどうにかできる問題ではないが、信用保証協会の保証や政府系金融機関の融資は、杓子定規に破産履歴があるかどうかで判断するのではなく、柔軟に対応してもらいたい。

 

ダメな企業の事業の再構築を促したいという政府の意図は解らないでもないが、それはあくまでその企業が主体的に行うことであり、新たな制度を作るよりも、政府のやるべきことは既存の制度の制限を緩和し、企業が主体的に動きやすくすることではあるまいか。

 

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2023.01.13

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