年末調整は義務なのか?
2024.05.07
ブログ
毎年年末になると、会社の経理部では、年末調整の必要書類を従業員から集めたり、還付金額の計算を行ったりと、一気に慌ただしくなる。
給与計算ソフトや年末調整ツールの導入により、以前よりは手間が減った一方で、毎年の税制改正で年末調整の計算や確認事項は複雑化している印象もある。
また、令和6年度税制改正による所得税・個人住民税の定額減税が予定されている。
国税庁では、特設サイトを開設し、計算方法等を周知しているが、「令和6年分所得税の定額減税のしかた」によれば、給与の支払者は、
①令和6年6月1日以後に支払う給与等に対する源泉徴収税額からその時点の定額減税額を控除する事務
②年末調整の際、年末調整時点の定額減税額に基づき精算を行う事務
の2つの事務を行うこととされている。
給与計算ソフト等の対応が予定されているとはいえ、企業の経理担当者にとっては、事務負担が増えることは間違いない。
こうした状況で、そもそも会社は年末調整をやらなければいけないのか、従業員各自で確定申告をしてもらうことはできないのか、と考えたくなる。
たとえば、アメリカには年末調整という制度はなく、給与所得者も確定申告を行っている。そこで、所得税法第190条を見ると、次の記載がある。(一部省略)
給与所得者の扶養控除等申告書を提出した居住者で、第1号に規定するその年中に支払うべきことが確定した給与等の金額が2,000万円以下であるものに対し、その提出の際に経由した給与等の支払者がその年最後に給与等の支払をする場合において、同号に掲げる所得税の額の合計額がその年最後に給与等の支払をする時の現況により計算した第2号に掲げる税額に比し過不足があるときは、その超過額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収すべき所得税に充当し、その不足額は、その年最後に給与等の支払をする際徴収してその徴収の日の属する月の翌月10日までに国に納付しなければならない。
この規定により、年末調整は、給与等の支払者がしなければならない義務ということになる。
なお、この義務に違反した場合には、所得税法第242条により1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処することとされているので、人員不足や多忙を理由に、年末調整をしないという判断は、決してするべきではない。
また、令和6年度税制改正による所得税の定額減税についても、事務負担の観点から、年末調整の際に一括して減税したくなるが、法令上そのような宥恕規定はないことから、仮に従業員が了承したとしても、そのような処理は認められない。
年末調整を行うことで、大多数の従業員は確定申告の手間を省くことができ、税務署側の事務手間も減らすことができるのであるから、合理的な制度と考えられる。
しかし、その給与の支払者、特に中小企業に過大な事務負担を課すことは、慎重であるべきだろう。
2024.05.07