ホテル・旅館における書類保存期間と電帳法対応について
2024.01.05
しっておくべき制度と用語
2024年1月より、電子帳簿保存法のうち「電子取引における電子データ保存」の猶予期間が終了し、実質的な義務化がスタートした。
今回はホテル・旅館における書類問題と電子帳簿保存法対応についてまとめる。
当事務所では、ホテル・旅館のクライアントが多く、その規模も様々であるが、ほとんど全てのクライアントが書類の整理問題に悩んでいる印象を受ける。
ホテル・旅館は他業種と比較しても電子化の進んでいない業種であり、とにかく紙でのやりとりが多い。
宿泊客のチェックインからチェックアウトまで、オペレーションに多くのスタッフが関わることからミスなくゲストをもてなすには紙で確実に必要情報を共有しあう必要があるのはやむを得ない側面もある。
当事務所ではクライアントの経営効率化に貢献したい思いからIT化、ペーパーレス化を勧めているが、ペーパーレス化に熱心な施設でさえも、高齢従業員のために一部は紙を取り入れているという話もよく聞く。
このように根強い紙文化が残るホテル・旅館には、大量の書類が存在する。
一般的な領収書等の経理書類だけなく、宿帳やオーダー伝票、タイムカードなど毎日大量に書類が発生している。問い合わせの多い各書類の保存期間は下記の通りである。
自社で発行した請求書控え・領収書控え
2022年1月以降発行のものは、電帳法対応システムで作成されているか、もしくは一貫してPCで作成した請求書等であれば紙でゲストやエージェントに渡していても、電磁的記録の保存のみで保存義務を満たす。
電磁的記録の保存要件には、見読可能装置の備付や手順書の備付等の要件を満たす必要があるが、追加コストなく対応できるケースが多く比較的ハードルが低い。
要件詳細は国税関係帳簿書類の電子帳簿等保存要件を確認してほしい。紙での保存も継続して認められる。
ただし、紙ではなくPDF等のデータ自体を請求書として先方に渡した場合は、電子データ保存の対象となり、電子データそのものの保管が2024年1月より義務化される。
保存期間は法人税法上は7年、繰越欠損金のある会社は10年である。また、消費税法上は7年の保存が求められている。
受け取った請求書や領収書(重要書類)
仕入や経費の支払時に受け取った請求書や領収書は、国税関係書類の重要書類に位置付けられ、紙で受け取ったものは紙で保存、データで受け取ったものはデータで保存が原則となる。
その他の書類でも契約書など、会社のお金や物の流れに直接的にかかわるものは重要書類とされ同様のルールが適用される。
紙で受け取った書類をデータで保存したい場合は、スキャナ保存要件を満たす必要があるので、クラウドシステムを利用するか、タイムスタンプを押すかで要件を満たす必要があり、コスト面でのハードルがやや高めとなる。
保存期間は法人税法上は7年、繰越欠損金のある会社は最長10年である。また、消費税法上は7年の保存が求められている。
総勘定元帳
総勘定元帳は会社法上は10年、税法上は7年もしくは最長10年の保管が必要となる。
電帳法対応システムで作成されているか、一貫してPCで作成され保存要件を満たしている場合は電磁的保管が認められる。
紙での保管も継続して認められる。
売上レポート類
フロントシステムから出力できる売上管理レポート等を長期間保存している施設も多い。
会社内での管理や経営分析のためのものであれば国税関係書類には該当しないため紙での保存の必要はない。
経営分析等で必要なときに出力できる環境であれば十分かと思われる。
ただし、売上レポートが補助簿の役割を果たしている場合は国税関係書類に該当するため、7年もしくは最長10年の保管が必要となる。
オーダー伝票
部屋やレストランでの飲料代等のオーダー伝票についても、顧客ごとの注文内容等をフロントシステムに転記して、売上管理を電子化している場合は保存の必要はない。
ただし、フロントシステムへの転記がない場合やオーダー伝票が補助簿の役割を果たしている場合は国税関係書類に該当するため、7年もしくは最長10年の保管が必要となる。
宿帳、宿泊者台帳、宿泊カード、お客様カード
宿帳の類は国税関係書類には該当しないが、旅館業法の定めにより「宿泊者名簿」として3年以上の保存が義務付けられている。
なお、宿泊者名簿の保存は必ずしも紙である必要はないので、フロントシステム等に情報が集約され保険所職員からの求めに応じて出力できる状態であれば、紙は破棄しても差し支えない。
賃金台帳・源泉徴収簿
賃金台帳は労働基準法で作成と保管(5年)が義務付けられた書類、源泉徴収簿は年末調整計算のためにフォーマットを提供している書類という位置づけであり法令による作成義務はない。
ただし源泉徴収簿を作成した場合は国税関係書類に該当し7年もしくは最長10年の保管が必要となる。
タイムカード
タイムカードは労働基準法により5年間の保管が義務付けられている(2020年3月以前は3年間)。
タイムカードは直接的には国税関係書類に該当しないが、賃金台帳と源泉徴収簿を兼ねている場合、賃金台帳には労働時間数の記載があることから、タイムカードが賃金台帳兼源泉徴収簿の根拠書類とみなされる可能性があり、その場合は国税関係書類として7年もしくは最長10年の保管が必要となる。
弊所では、従業員数の多い会社では毎月のタイムカードは膨大になるため、紙でのタイムカードではなく、電帳法対応のタイムカードに移管することを勧めている。
データ化できるタイムカードの場合、残業時間集計も大幅に時短でき、給与計算事務も効率化するため、まだ紙のタイムカードを使っている場合はぜひこの機に電子化を進めてほしい。
2024.01.05