事業再生におけるスポンサーのリスク   第二次納税義務編

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事業再生におけるスポンサーのリスク   第二次納税義務編

2016.06.16
企業再生

1 「自力再生」と「スポンサー型再生」

 

企業再生の分類として、「自力再生」と「スポンサー型再生」に分ける方法がある。読んで字の如く、前者は現在の株主・経営陣が自力で再建を図ることを意味し、後者は同業者や得意先、仕入先あるいは知人・投資家等の第三者に会社を再生するための援助を受けることを意味する。会社の現在の株主・経営陣からすれば、「自力再生」が良いに決まっているのだが、再生企業は資金が枯渇している場合が多く、スポンサーによる信用補完や資金提供がなければ、例え債務カットを受けたとしても再生が覚束ない場合が多い。かつては、再生が必要な企業に対してスポンサードすることはリスクが高く、そもそもスポンサーが現れないケースが多かった。しかし、最近では、民事再生法による法的な債務カット手法、中小企業再生支援協議会や地域経済活性化支援機構を利用した私的整理による債務カット手法が普及し、さらに会社分割や事業譲渡などによるいわゆる第二会社方式によって、再生企業の良い部分だけを切り出してスポンサードすることが一般化したため、「スポンサー型再生」が増えている。

民事再生法や私的整理手続きによって債務を大幅にカットし、事業と関係のない遊休資産や不良資産などを元の会社に置いたまま、再生企業の良い部分だけを持ってくることができるのであるから、第二会社方式によって再生企業のスポンサーになることは、旨味の大きい取引となる可能性がある。

 

 

2「ソフトな第二会社方式」と「ハードな第二会社方式」

 

しかし、再生企業の財務状況によっては、民事再生法や私的整理によって必要な債務のカットができない場合がある。その典型的な例が、租税の多額の延滞があるケースである。民事再生法を利用しようと、地域経済活性化支援機構を利用しようと、租税債務をカットすることはできない。そのため、租税債務の返済の目途がたたない場合には、そもそも民事再生や私的整理によるスキームの土俵に乗らないのである。

では、そのような場合に、企業は再生を諦めるしかないのであろうか。租税を延滞することは理由の如何に関わらず良くないことではあるが、さりとて現在営業利益が黒字の企業が過去の租税の延滞によって倒産してしまうことは、社会的な損失と言える。そのような場合には、民事再生や私的整理のように債権者と合意を得たうえでなく、一方的に会社分割ないしは事業譲渡を行って、再生企業の良い部分を第二会社に譲渡する手法が考えられる。しかし、この場合には、民事再生や私的整理のようなソフトランディングではなく、ハードランディングとなり、スポンサーは様々なリスクに晒されることになる。全ての債権者の合意を事前に得て行う第二会社方式を「ソフトな第二会社方式」とすれば、そうでない第二会社方式のことを、「ハードな第二会社方式」と呼ぶことにする。

 

 

3 詐害行為取消権と否認権

 

 

「ハードな第二会社方式」で最も想定されるリスクは、会社分割や事業譲渡が民法の詐害行為取消権もしくは破産法の否認権の対象となる可能性があることである。詐害行為取消権とは、債権者が一定の要件の下に債務者の行った法律行為を取消すことができる権利のことである。詳しい説明は省くが、典型的な例で言えば、倒産直前の債務者が、土地や有価証券など金銭的価値のある財産を他者に廉価で譲渡したような場合に、債権者がその譲渡を取消すことができる権利のことである。否認権は、債務者が破産した場合に、債権者ではなく破産管財人に認められた権利で、内容は詐害行為取消権と類似している。

事業譲渡の場合には、移転する事業そのものや個々の財産の譲渡について当然に詐害行為取消権や否認権の対象となるし、会社分割についても、平成24年10月12日に最高裁判所が会社分割そのものを詐害行為として取消す判断を示した。「ハードな第二会社方式」を行う場合には、詐害行為取消権や否認権の対象とならないために、最低限妥当な価格で譲渡を行う必要がある。

 

 

4 第二次納税義務

 

 

「ハードな第二会社方式」を行う場合に見落とされがちなリスクとして、第二次納税義務がある。第二次納税義務は国税徴収法第33条から第41条までに列挙されているが、第二会社方式で最も問題になるのは、第38条の「事業を譲り受けた特殊関係者の第二次納税義務」である。

国税徴収法第38条には「納税者がその親族その他納税者と特殊な関係のある個人又は同族会社(これに類する法人を含む。)で政令で定めるもの(以下「親族その他の特殊関係者」という。)に事業を譲渡し、かつ、その譲受人が同一とみられる場所において同一又は類似の事業を営んでいる場合において、その納税者が当該事業に係る国税を滞納し、その国税につき滞納処分を執行してもなおその徴収すべき額に不足すると認められるときは、その譲受人は、譲受財産(取得財産を含む。)を限度として、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う。」と定められている。

簡単に言うと、例えば、滞納税金のある会社が滞納税金を置いたまま、社長の奥さんが株主として設立した会社に良い部分だけを事業譲渡してしまったような場合、社長の奥さんが設立した会社は滞納税金の納税義務を負うということである。社長の奥さんや子供が設立した会社であれば、通常の感覚でも致し方がないと思うであろうが、問題は、税法で親族とか特殊関係者とか言った場合、範囲が通常の感覚よりも広いことである。税金まで滞納した緊急の状態で事業譲渡をする場合、中小企業がスポンサーになってくれる純然たる第三者を探すことは難しく、結局血縁を頼ってスポンサーを探すケースは多い。しかし、例えば従弟にスポンサーをお願いして事業を引き取ってもらった場合も従弟の会社は第二次納税義務を負うことになってしまうのである。親族にスポンサーを頼む場合は十分な注意が必要だ。

 

 

5 新設会社分割と第二次納税義務

 

 

では、純然たる第三者をスポンサーにした場合、第二次納税義務の問題からは逃れられるのであろうか。実は、見落とされがちな論点であるが、純然たる第三者がスポンサーになっても、第二次納税義務が発生する場合がある。

例えば、新設分割によって、会社の良い部分だけを子会社に譲渡し、子会社の株式をスポンサーに譲渡する第二会社方式は企業再生の世界ではよく利用されている。なぜ新設分割+株式譲渡スキームが多様されるかと言うと、理由は三つある。

一つ目の理由は、事業に必須の不動産があるような場合、事業譲渡では不動産取得税が課されるが、会社分割の場合には要件はあるものの、不動産取得税を課されないケースが多いからである。担保権を持っている債権者との合意は最低限必要であるが、事業用の不動産の価値が高いような場合には、事業譲渡に比べて会社分割を用いるほうが全体のスキームコストが安くあがるのだ。

二つ目の理由は、事業譲渡に比べると会社分割のほうが許認可や契約などの引継ぎがスムーズな場合が多いからである。会社分割では銀行口座も引継ぎ対象とすることができるので、得意先からの入金先を変更する必要もなく、実務的には事業譲渡よりも随分楽である。

三つ目の理由は、新設分割の場合、新しく作った会社に債務を移転させなければ、あるいは、元の会社が重畳的債務引き受けをすれば、債権者保護手続きがいらないからである。債権者保護手続きとは、官報に会社分割することを公告したり、債権者に会社分割をして新しい会社に債務が移転することを個別催告したりすることである。債権者保護手続きをすると、大抵の場合債権者に会社分割をすることが事前にばれてしまうので、「ハードな第二会社方式」では宜しくない事態に陥る可能性がある。そのため、事前に債権者に察知されない新設分割を使うのである。

しかし、新設分割を行った場合、分割直後は元の会社の100%子会社であるから、国税徴収法第38条にもろに該当する。会社分割直後に第三者に株式を移転したとしても、スポンサーは第二次納税義務をそもそも負った企業の株式を買ってくることになってしまうのである。

 

 

6 吸収分割と第二次納税義務

 

 

では、新設分割ではなく、吸収分割を行った場合はどうだろうか。吸収分割の場合には債権者保護手続きが必要になるので、債権者に事前に秘匿して会社分割を行うことは難しい。しかし、主要な債権者の合意を得られている場合には、許認可の引継ぎなど実務的な利点を考慮して、吸収分割を選択する場合はあり得る。分割の対価を金銭にすれば、第二次納税義務も発生しない。しかし、不動産取得税のメリットを受けるための要件の一つとして、会社分割の対価を株式とする旨が定められており、金銭を対価にした場合には、不動産取得税のメリットはあきらめなければならない。

もし、不動産取得税のメリットを得るために、吸収分割の対価を株式とした場合には、先ほどの新設分割の場合と同じ議論が発生する。すなわち、現在の税法では、分割をした直後に分割を受けた会社が分割元の会社の同族会社であれば、第二次納税義務が発生する。税法上の同族会社とは会社の株主とその特殊関係者の上位3グループで議決権の50%超を保有する会社のことである。スポンサーが上場会社のような株主が多数いる会社の場合は良いが、スポンサー企業が単一の株主グループに支配されている企業の場合には、会社分割の対価として発行する株式が第二会社の発行済み株式の例え1%であったとしても、第二次納税義務が発生することになる。これはあまりに過酷な取扱いである。

平成28年度税制改正によって、国税徴収法施行令第13条が改正され、平成29年1月1日以降、第二次納税義務を負うのは、分割直後の会社が、同族会社ではなく、被支配会社と改められた。すなわち、吸収分割直後に元の会社が50%超の株式を保有するような場合でなければ、第二会社は第二次納税義務を負うことはなくなった。この現実に即した改正により、「ハードな第二会社方式」を行う企業再生において、株式を対価とした吸収分割スキームを利用する事例は増加すると思われる。

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