使いやすい税制「中小企業投資促進税制」と、意外に難しい機械及び装置の判断基準
2025.09.02
税務
令和7年度税制改正で中小企業投資促進税制の延長が決まった。
設備投資関連の税制優遇は多数あるが、中小企業投資促進税制は事前の申請等が不要で確定申告時の別表添付のみで適用できることから使い勝手がよい税制の一つだ。
中小企業投資促進税制の概要
中小企業投資促進税制は、中小企業者等が下記の新品資産を取得した際に、30%の特別償却を受けられるというものである。
資本金3000万円以下の法人であれば特別償却だけでなく7%の税額控除も選択が可能である。
番号 | 区分 | 要件・備考 |
1 | 機械および装置 | 1台または1基の取得価額が160万円以上(※コインランドリー業等で他者に全委託するものは除く) |
2 | 測定工具・検査工具(単体) | 1台または1基の取得価額が120万円以上 |
3 | 測定工具・検査工具(合計) | 合計取得価額が120万円以上(※1台または1基の価額が30万円未満のものは除く) |
4 | ソフトウェア | (1)一のソフトウェアで70万円以上 (2)当期中に事業の用に供した合計額が70万円以上 |
5 | 車両および運搬具(普通自動車) | 貨物運送用で車両総重量が3.5トン以上の普通自動車(※特定規定に該当) |
6 | 内航海運業用船舶 | 内航海運業に供される船舶(※総トン数500トン以上は環境対応等の届出が必要) |
業種の指定もあるので適用要件詳細は国税庁HPを確認してほしい。
機械及び装置とはなにか
ところで、中小企業投資促進税の対象資産は機械及び装置と検査測定工具、ソフトウェア、貨物運送用の車両など製造業が工場で使用するような資産がイメージされる。
とはいえ、製造業以外の企業の固定資産台帳でも「機械及び装置」は目にすることがある。
例えば建設業における建設機械が計上されるなどはまだわかるが、飲食業で業務用の食洗機が機械装置として計上されていたり、クリニックで高額な医療機器が機械装置として計上されていたりもする。
多くの会社の固定資産台帳をみると、機械装置として固定資産台帳に登録されているものは会社によって異なり、経理担当者の感覚的というあいまいな基準で計上していることがわかる。
なんとなく高額で、なんとなく大きくて、なんとなく一般に売ってないようなものを機械及び装置としていることがある。
ここで注意が必要なのが、中小企業投資促進税制における機械及び装置は、勘定科目ではなくその実態によって判断される点である。
つまり、法人税法上の機械装置に該当しなければ優遇税制の適用はできない。
では法人税法上の機械装置とは何かと調べても、機械及び装置を定義する条文はないので、実務上は耐用年数省令をもとに判定していく。
機械及び装置の耐用年数は別表第二に定めがあるが、「●●業用設備」というような表記しかないので、まずは耐用年数省令で具体的な定めのある建物付属設備、構築物、車両及び運搬具、船舶、航空機、器具及び備品に該当するかどうかを検討する。
機械か器具かの判例紹介
前述した業務用食洗機や医療機器は器具及び備品に定めがあるため、機械及び装置ではなく器具及び備品と判断するのが一般的である。
しかし、これらの機器が製造や役務提供などの一つの目的を果たすための複数設備の組み合わせの一部であり、単体で稼働しないような総合資産である場合は、器具及び備品に定めがあっても機械及び装置と判定されることもある。
メルクマールとなる大阪地裁平成30年3月14日判決を紹介したい。
本判例はパン工場の冷蔵庫等は機械及び装置に該当するか、器具及び備品に該当するか争った事案である。
中小企業投資促進税制では機械及び装置に該当すれば税制優遇が受けられるが、税制優遇を受けない場合は、器具及び備品に該当した方が耐用年数が短く、減価償却が多く取れるメリットがある。
【事案の概要】
パン等の製造販売を行う法人が、製造現場で使用する冷蔵庫や発酵器などの設備について「器具及び備品」として減価償却を実施。これに対し税務署は「機械及び装置」に該当するとして更正処分を行ったため、納税者が処分取消を求めて訴訟に至った。
【納税者の主張】
納税者は、法人税法施行令における資産区分に関し、「器具及び備品」は具体的な資産例が列挙されているのに対し、「機械及び装置」は抽象的な定義にとどまる、と指摘。
列挙された資産は当然「器具及び備品」に該当し、仮に両者に該当する場合でも、どちらで減価償却するかは納税者の選択に委ねられるべきと主張した。
【裁判所の判断】
裁判所は、次の事実を重視した:
・大量生産を前提とした製造工程において、複数の機器が連携し一体となって作業を行っている
・各機器は工程ごとに分担し、前工程の成果を次工程が引き継ぐ形で反復的・継続的に稼働している
・設備は互いに近接して配置されており、有機的に連携している
これらの点から、対象機器は製品の製造を目的とし、有機的に結合して「一つの設備」を構成していると認定。したがって「機械及び装置」に該当すると判断し、納税者の請求を棄却した。
まとめ
中小企業投資促進税制は使い勝手が良いが、適用対象の資産が機械及び装置に該当するか否かは注意が必要である。
過去の裁判例からは、見た目や名称から「器具及び備品」と判断されがちな設備であっても、実際の用途や配置状況により「機械及び装置」と判定される可能性があることを示している。
機械及び装置の該当性判断には、次のような視点からの検討が求められる。
判断ポイント | チェック項目 |
設備の機能的つながり | 単体か、連携して工程を担っているか |
設備の目的 | 製造・役務提供を主目的としているか |
設置状況 | 有機的に配置されているか |
2025.09.02