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はじめての差し押さえ

2014.10.10
再生日誌

皆さんの中で、実際に銀行口座の差押えや仮差押えを受けた経験のある方はどの程度いるだろうか?多分、ほとんどいないと思う。だから、預金通帳に差押えがどのように記載されるかも知らないに違いない。勿論、知る必要はないし、何事も経験と言ってもそのような経験はできれば人生で一度もしたくないものである・・・

父の経営する会社に入って4年ほどたったある日、私は会社の最大得意先であるKホームセンターの本部を訪問して帰る途中だった。担当のM君が車を運転し、私は助手席に座って寛いでいた。ほぼ表敬訪問でシビアな商談をしたわけではないが、最大得意先の商品部長と会うのは神経が疲れる。無事に終わってすっかり気が緩んでいたのだが、携帯電話の着信を見て嫌な気分になった。メインバンクの支店の番号だったのだ。携帯にまで電話をかけてくるなど良い話であるはずがない(そもそも、私が会社に入って以来、メインバンクから良い話があったことなど一度もない)。電話を取ると担当のKさんからだった。彼はいつもの暗く冷たい声で挨拶もそこそこに「社長の口座が差し押さえられました。」と言った。「ですので、来週予定している融資は実行できません。」と恐ろしいことをさらりと続ける。冗談じゃない。来週の融資がなければ今月の給料が払えない。状況が全く分からないので、パニックになりそうだったが、横にM君がいるので、あまり動揺した姿は見せられない。「それは困りますね。」と努めて平静を装って言った。電話の向こうはしばらく沈黙している。こいつ、状況を理解していないのか、シビアな状況すぎて頭のネジが飛んじゃったのか、どっちだろう?と考えているのがひしひしと伝わってくる。「あのですね、社長の個人口座が差押えられるとですね、今回は仮差押えですけども、それでも会社の借入金の期限の利益喪失理由になるんですよ。ですから、本来はですね、新規の融資ができないだけでなく、全ての借入金を一括返済してもらわないといけないなんですよね。」と噛んで含めるように言った。借りなきゃ今月の給料も払えないのに、一括返済なんてできるわけないだろ、と思ったが、そんなことは言えないし、M君の横で差押えだのなんだのと話すわけにもいかない。「ちょっと、状況がわからないので、調べてもう一度電話してもいいですか?」とだけ言うと、「直ぐに状況を調べて、何がどうなっているのか報告してください。とにかく、仮差押えが解除されないかぎり、融資は一切できませんから。」と一方的に喋って切られてしまった。今にして思うと向うもパニクっていたのだろうが、感じが悪いこと夥しい。横を見ると、不穏な空気を察したM君が心配そうにしていた。

会社に帰って茫然とした父から件の預金通帳を見せてもらうと、600万円ほどあった残高が0になっており、出金の欄にはたった5文字「サシオサエ」と印字されていた・・・・・

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2014.10.10

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