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粉飾決算の重さ

2018.04.12
再生日誌

2013年7月、オリンパスが1178億円もの粉飾決算を行っていた事件について、経営者に執行猶予付きの有罪判決が出た。そのニュースを見た時、私はライブドア事件と比べて、あまりにも軽すぎるように感じた。オリンパスの粉飾額1178億円に対し、ライブドアは53億円の粉飾にも拘らず、堀江元社長は懲役2年6月の実刑判決を受けたのである。ライブドアとほぼ同時期に起きたカネボウ事件の粉飾額は2150億円であるが、実際に刑務所に入った経営者はいない。やはり、日本の司法はエスタブリッシュメントには甘く、堀江元社長のようにどこの馬の骨とも知れない(堀江さんには失礼な表現であるが)ベンチャー経営者には厳しい、不公平な制度だと思ったものである。

その年のある忘年会で企業再生を専門にする弁護士の先生とその話題が出て、私の感想を語ると、弁護士の先生は、いや、自分は今回のオリンパスの件は最初から執行猶予が付くと思ったし、過去の判決を読めば、ライブドアだけがなぜ重い判決になったか、きちんと理由がある、と説明してくれた。すなわち、カネボウやオリンパスは、会社を存続させるために止むに止まれず行った粉飾であるが、ライブドアは、会社の存続がかかっているわけでもないのに、ただ単に経営者自身の財産でもあるライブドアの株価を上げたいという私利私欲のために行った粉飾で、それが経営者の罪をより重くした理由である、とのことだった。

オリンパスの経営者と堀江元社長の量刑に完全に納得できるわけではないが、一理ある。私のような会計専門家は、どうしても会計的な悪質さに注目してしまう。ライブドア事件の具体的な粉飾の内容に精通しているわけではないが、主要なものは、確か増資などで得た資金を投資事業組合を利用した複雑なスキームで利益に計上した、というものだったと記憶している。会計的には出資か稼得利益かの違いはあれど、純資産の金額自体をごまかしているわけではないので、純資産そのものをごまかしていたカネボウやオリンパスに比べて会計専門家としては悪質さの程度が低いように感じてしまう。ライブドアの根本的な財務体質が悪かったわけでもなく、強制捜査が入らなければ、ライブドアがあのタイミングで倒産することもなかったはずである。しかし、正にそのこと、会社が倒産の危機にあったわけでもないのに粉飾をしたことが問題だったのだ。司法は会計的な悪質さよりもむしろ動機を重視するということなのだろう。

この仕事をしていると、粉飾された決算書を数限りなく見る事になる。むしろ、粉飾の定義にもよるが、中小企業は皆、多かれ少なかれ何らかの粉飾をしているのではないかと思えてくる。しかし、オリンパス的な粉飾か、ライブドア的な粉飾か、というと、ほとんどはオリンパス的な粉飾である。誰も好き好んで粉飾をしたいわけがない。業績が悪いのはそもそも経営者の責任と言っても、自宅を担保に差しだし、並のサラリーマン以下の給与で精神的に追い詰められながら働いている社長達を見ると、とても道徳を振りかざして糾弾する気にはならない。

とはいえ、程度と内容の問題でもあるし、自分が債権者として関わっていれば、そうも言ってはいられないのが当然である。

 

中国から帰国して直ぐ、私はS社のある県の県庁所在地にある、その街ではかなり大きな会計事務所を訪問した。その会社事務所はS社の顧問をしており、Y社長から連絡してもらって、S社の元帳などの会計資料を見せてもらうことになっていたのである。元帳を見た結果、判明した主要な粉飾の内容は、期末に一本次の仕訳を入れているだけだった。

(借)借入金「笠間商産」 2億円 (貸)仮払金「社長」 2億円

実にシンプル且つ低レベルな粉飾である。どうせ粉飾をするなら、元帳を見たくらいでは簡単に解らない粉飾をやって欲しい。社長への仮払金とは何かと聞くと、社長の交際費があまりにも多いので経費処理できず、仮払で処理したもの、とのことだった。つまり、過去の損失の塊である。聞いた話では、S社が得意とする接待は、1万円札をばら撒いてホステスに拾わせる遊びだそうである。まるで大正時代の成金のような話であるが、その原資が我社からの貸付金だったとは、腹立たしいを通り越して脱力してしまう(今になって考えると、その2億円の金の流れについてはもっと調べるべきだったのかもしれない。いくらなんでも2億円飲んでしまったというのも不自然だ)。おまけに、売上の元帳を見ると、なんと、かつて腎臓売れで有名になった商工ローン会社やサラ金とおぼしき会社などの高利貸しからの入金が全て売上に計上されていた。高利貸しへの返済や利息は売上のマイナスや仕入、利息などに思うがままにぶち込まれており、もはや滅茶苦茶である。

はっきりした数字は調べる気にもならなかったが、おそらく2億円から3億円の債務超過で損益も年間数千万円の赤字であることは明らかであった。もはや、これ以上の支援継続はありえない。

会社に帰ると直ぐ、例によって、会長(祖父)、社長(父)、専務、S常務との鳩首会議が始まった。別に決算書を見て貸してきた訳でもないと思うが、実態を報告するとそれまでS社を庇い続けてきた祖父もS常務も流石に押し黙ってしまった。S社と組んでの中国への進出自体に批判的だった専務や父からすれば、それ見たことかというところであるが、だからといって貸した2億円(その時はそう思っていた。実質的な損害はそんなレベルではなかったのであるが)が返ってくるわけでもない。

結局、この夏のシーズンが終わるまでは最低限の支援をし、その後に支援を打ち切ることになった。本当はこれ以上びた一文貸したくないのだが、S社が突然潰れて我社の最大の売上を占める夏物の藺草製品が欠品を起こした場合、取引先の大手量販店から取引を切られかねない。そうなれば、我社の存亡に関わるので、止むを得なかった。S社の問題は単に不良債権の問題というよりも、我社のビジネスそのものに絡んでくる非常に厄介な問題だったのである。

夏で支援を打ち切ることは決まったものの、いくつか面倒な問題が残っていた。一つは誰がS社のY社長に支援打切りを伝えるかである。2億円からの債権が貸倒れるのであるから、本来であれば激怒するのはこちら側のはずである。それよりもずっと少ない金額で殺人事件になる場合もあるのだ。しかし、経営者にとって、会社の死は自分の死も同然である。まして、祖父や父、S常務にとってY社長は長年のビジネスパートナーで一緒に中国進出などで苦楽を共にしてきた仲だ。その場にいる誰もY社長にS社の死を宣告するのを嫌がった。身内ながらいい人達である。

最初からそうなるだろうとは思っていたが、しがらみのない私がY社長に話をすることになった。今まで必要なだけ金を貸してくれたのに、私の出現とともに支援が打ち切られるのであるから、Y社長の頭の中で S社倒産の原因=私 という等式が成立つのは容易に推測がつく。鷹揚に金を貸して感謝される美味しい役回りもなく、貧乏籤である。

もう一つの問題は銀行にどうやって説明し、支援を求めるかである。これはこれで頭の痛い問題だった。

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2018.04.12

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