後継者が読むべき決算書 第3回 黒字でも会社は行き詰まる
2026.10.15
税務
利益は会社の成果を測る数字であり、現金は支払いを実行するための資源です。
両者は関係していますが、同じものではありません。
会社が行き詰まるのは、損益計算書が赤字になった瞬間ではなく、支払日に必要な資金を用意できなくなったときです。
利益と現金が一致しない五つの理由
P/Lは発生主義に基づいて作成されます。
商品を販売すれば、代金の入金前でも売上と利益が計上されます。一方、借入金の元本返済は、現金を減らしても費用にはなりません。
この違いが、黒字と資金不足を同時に生じさせます。
| 取引・変化 | 利益への影響 | 現金への影響 |
|---|---|---|
| 売掛金の増加 | 売上として利益に反映 | 入金前なので現金は増えない |
| 棚卸資産の増加 | 売れるまで費用化されない部分がある | 仕入代金の支払いで現金が減る |
| 設備投資 | 原則として減価償却で期間配分 | 取得時にまとまった現金が出る |
| 借入金の元本返済 | 費用にならない | 返済額だけ現金が減る |
| 法人税・消費税の納付 | 会計上の利益との時期や計算基礎が異なる | 納期限に現金が減る |
利益1,000万円でも現金が300万円減る設例
他の要因を捨象した単純な例で考えます。
年間利益が1,000万円あっても、売掛金が800万円増え、借入金を500万円返済すれば、現金の増減は次のようになります。
| 要因 | 現金への影響 |
|---|---|
| 年間利益 | +1,000万円 |
| 売掛金の増加 | −800万円 |
| 借入金の元本返済 | −500万円 |
| 現金の増減 | −300万円 |
利益が出ていること自体は重要です。
しかし、その利益が現金へ転換されているか、返済や投資を含めても必要な資金が残るかまで見なければ、支払能力は判断できません。
売上の増加局面ほど運転資金が先行しやすいため、黒字だから安心とは限らないのです。
キャッシュ・フロー計算書は現金の理由を示す
| 区分 | 示すもの | 経営上の確認 |
|---|---|---|
| 営業活動によるCF | 本業から生じた現金 | 利益が現金に転換されているか |
| 投資活動によるCF | 設備投資や資産売却による現金 | 将来の収益に向けた投資か |
| 財務活動によるCF | 借入・返済・配当による現金 | 外部資金への依存と返済負担は適正か |
中小企業には、上場会社と同じ形式のキャッシュ・フロー計算書を必ず作成する義務はありません。
それでも、月次試算表と資金繰り表を使えば、同じ視点で現金の動きを管理できます。
C/Fが過去の現金変動を説明する資料であるのに対し、資金繰り表は将来の入出金を予測する資料です。
経営には、両方の視点が必要です。
資金繰りは決算後ではなく期中に管理する
資金不足が明らかになってから銀行へ相談しても、必要な時期に調達できるとは限りません。
売掛金の入金予定、仕入・人件費・税金の支払予定、設備投資、借入返済を月ごとに並べ、少なくとも数か月先までの残高を見通しておく必要があります。
資金繰りは、会社自身が先回りして設計するものです。
四半期ごとに確認したい五項目
- 売上と粗利率:数量・単価・原価のどこに変化があるか。
- 営業利益:本業が固定費を負担できているか。
- 売掛金と棚卸資産:売上以上の速度で増えていないか。
- 現預金と借入返済:今後の支払いと返済を賄えるか。
- 納税見込み:法人税・消費税のための資金を確保できているか。
税務の視点
納税義務と入出金の時期は必ずしも一致しない
法人税は税務上の所得を基礎に計算されます。
消費税は、原則として売上に係る消費税額から、仕入れや経費等に係る控除対象仕入税額を差し引いて計算します。
いずれも、取引先からの実際の入金時期と納税義務が生じる時期は必ずしも一致しません。
売掛金が未回収でも売上や課税売上が計上され、納税資金だけが先に必要になることがあります。
決算が締まってから不足に気づくのでは遅いため、期中の試算表で利益と消費税の発生状況を確認し、決算前から納税資金を分けて確保しておくことが有効です。
決算書を次の意思決定につなげる
決算書は、税務署へ提出して役目を終える書類ではありません。
経営者が過去の判断を検証し、次の一手を考えるための資料でもあります。
数字を読む目的は、用語を覚えることではなく、会社に何が起きているかを説明できるようになることです。
当事務所では、決算時の申告内容だけでなく、期中の試算表も活用しながら、前年との違い、利益構造、資金繰り、納税見込み、翌期に注意すべき点を経営者の方と一緒に確認しています。
会社を引き継いだばかりで、どこから見ればよいかわからないという段階からでも構いません。
数字を経営に使える状態へ整えるところから、丁寧にご支援します。
シリーズ「後継者が読むべき決算書」
- 第1回 決算書をもらったら最初に何を見るか
- 第2回 会社の体力と収益力はどこに表れるか
- 第3回 黒字でも会社は行き詰まる(この記事)
※本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な情報です。個別の判断については専門家にご相談ください。
2026.10.15




